相場格言集A   提供 東洋経済新報社
【棒上げは棒下げにつながる】
たとえば、わずか週足2本で500円高を演じたような銘柄、つまり棒上げ銘柄は、高値で値段を維持することが困難で、短期間のうちに往って来いとなるケ?スが多いので、短期急騰銘柄への新規買いは気をつけるべしとの言葉です。ジリジリと下値を切り上げている銘柄は、買い方がまだ株を仕込んでいる状態ですから、よほどの悪材料が出ないと暴落しません。ジリ高から棒上げとなった時は、買い方が売り逃げるために買い煽ることがほとんどです。買い方が売り逃げた後は買う人がいませんので棒下げとなってしまいます。

【相場は高値圏では強くみえ、安値圏では弱くみえる】
人の気持ちは目の前で起きている動きに影響を受けやすいという言葉。株価が活況で新値を追っているような時は、多くの人が買いのスタンスですから、相場は強くみえるものです。反対に安値を更新しているような相場では、まだ下げる気持ちになるものです。一気に強気になったり弱気になる必要はありませんが、相場の勢いだけをみるのではなく、高値圏では慎重、安値圏では前向きの気持ちで相場をみることが大切です。

【天まで届く相場はない】
相場の勢いが非常に強く、弱気は一切無用という相場が時には起こります。1989年のバブル相場では全ての投資家が青天井相場といって熱狂しましたし、2000年1月のIT相場ではネット株が天井知らずの勢いでした。弱気を口にすることが恥ずかしい雰囲気でした。童話のジャックと豆の木に出てくると話と同じです。天までは届くことはできないのです。青空相場といった言葉が流れはじめたら、この格言を思い出して下さい。

【バリュー株、翻訳すればただの出遅れ株】
横文字に弱い日本人を皮にくった言葉。相場では必ず、テーマ性があって業績のよい銘柄が先に買われます。しかし、いつまでも同じ銘柄が人気を持続するこわけではありませんから、同業種、類似銘柄へ比較感から資金が向かいます。こうした動きは以前から出遅れ株買いとして展開されてきました。その出遅れ株をバリュー株と呼び換えると、立派な存在に変わって、大相場に発展する錯覚に陥入るから不思議です。所詮は出遅れですから上値限界がありますので、個人投資家はこうした横文字に気をつけましょう。

【江戸の仇は江戸で討たず、長崎で討つ】
憎い仇を討とうと思えば、忠臣蔵のようにじっくり構えて機が熟すのを待つ気持ちが大切という教え。株でも、やられたからといって、すぐに取り換えそうと、かっかとならず、一旦は手仕舞って、なぜ損したかをじっくり考え、冷静になって再挑戦することが大事である。とくに、相場は今日で終わりではないので取り返すチャンスは十分にあるから、損を出した時ほどあせらないことが大切である。

【鳥は古巣に帰り、相場も古巣に戻る】
鳥にとっても人間にとっても、昼間、大いに動き回り活躍しても夜になると、居心地のいい自分の寝ぐらに帰るのです。相場も何かの理由で実体からみて割高と思われるような活躍をすることがありますが、しかし、いずれ、人気が衰退すると内容に見合った居心地のいい元の水準まで戻るという格言です。いくら人気化してもPERなどからみて明らかに割高な場合は長続きしないので深追いは禁物という教え。

【見ざる、言わざる、聞かざる】
相場師・本間宗久の相場極意、「三猿金銭録」の中心的格言。日光東照宮の有名な「見ざる、言わざる、聞かざる」の3匹の猿で表した世渡りの術は、株式投資にも大いに役立つというもの。株式投資には情報収集は大切ですが、集めることだけに熱を上げて、あっちに行ってペチャクチャ、こっちに来てもペチャクチャやっていては、何が重要な情報であるかが分からなくなります。また、他人の意見ばかり聞いていては人気につられて2年前のようにIT株の天井を掴んでしまいます。人生も株式投資も最後のところは自己の確立が大切といえるようです。

【株屋殺すにや、刃物はいらぬ】
今は株屋ではなく証券会社ですが、昭和20、30年代の株屋と呼ばれた時代には、商人(あきんど)の旦那衆の中でも株屋の主人は相場がよい時は羽振りがひときわよく、ときには目に余るほどだったようです。そのかわり、相場が沈滞して商いの細る日が続くと意気消沈してしまい、その浮沈の激しさから株屋の旦那を揶揄したことばです。個人投資家の方も儲かった時にはあまり派手な遊びはしないほうがいいようです。

【罫線屋、罫線引き引き足をだし】
今ではケイ線とは呼ばないでチャ?トといいますが、パソコンがなかった頃はグラフ用紙に鉛筆と定規で株価の動きを手作業で描いていました。当然、作業量に限界があるため,、自分の好きな銘柄に偏ってしまいます。その結果、全体の相場の動きに逆らった、自分に都合のいい解釈になって損をすることが多かったことから出た言葉です。いつの時代でも、自分の持っている銘柄が全体の相場展開の中でどのような位置にあるのかを知ることは大切といえます。そのための補助的な役割がチャートといえるでしょう。

【買うべし、売るべし、休むべし】
以前は、今のようなネット取引きがなく、手数料も高かったため、しょっちゅう売ったり買ったりばかりしていると結局、儲からない、時には休みなさいという教え。

【休むも相場】
という格言もあります。株式投資は景気の動向を見極めて、買う時は買い、売る時は売るというスタンスが基本で、景気の見通しが分からない時は休むのも大事な投資態度です。短期売買が中心のネット取引きでは、大勢観は無関係のように思われがちですが、時には休んで深呼吸して相場の方向性を掴むことが大切です。

【相場はすぐに止まらない】
この格言から、車は急に止まれない、という交通標語ができたようですが、まさに、車も相場も動きのあるものですから、すぐには止まらないものです。車の場合は運転者の自覚の問題ですが、相場は多くの人が参加して動いていますから、いったんスピ?ドが加速されると、簡単には止めることができません。とくに、相場で厄介な点は、人の心理が一方方向に偏りやすいことです。このため1度や2度の金利引き上げでは相場はピ?ク打ちしませんし、反対に下げ止まって欲しいと思っても少々の金利下げでは底打ちしません。このため、「相場は楽観の中で天井を打ち、悲壮感の中で底を打つ」という格言があるほどで、行くところまで行くのが相場です。

【下手なナンピン大怪我のもと】
ナンピンとは「難平」と表記します。難とは難儀(なんぎ)なこと、つまり、株式投資では値下がりなどによる損失のことです。この損失をできるだけ平らにしようという投資方法がナンピンです。たとえば、1000円で1000株買った株が800円に下がったところで、 さらに1000株買い増しすると平均の買いコストは900円になり、買い単価を下げることが できます。資金に余力のある投資家の有力な投資方法です。しかし、右上がり相場では大きな効果がありますが、2000年から2001年にかけてのような右下がり相場では、底だと思ってナンピンしても、さらに下がって、損が大きくなります。相場が基調的に上向きか、下向きかを見極めてナンピンすることが大事であるという格言です。

【人も我もで相場は天底をつける】
日頃、熱心に景気や相場の勉強をされる人ほど、相場見通しに対する信念は強いものがあります。しかし、最後は、人間の信念をもくつがえすほど、相場は非情で厳しいものである、という格言です。例えば、天井を打って下げ始めた相場が景気、企業業績などから、このあたりで下げ止まると自信を持っていた水準を切ってきますと、周囲は弱気に充ち溢れ、次第に自分が間違っているのではないかと疑心暗鬼に陥り、遂に、最後には自らも弱気になってしまいます。そのような時が底というわけです。株価の天井はこの反対の状況です。「サイコロジカル」チャートがこうした投資家心理をよく表しているものです。

【一両にこだわって一〇〇両に泣く】
丹精込めて作った物については、「この値段では売れるはず」と思うのは今も昔も変わりはありません。しかし、商いでは、物の値段は買い手側が決めるものです。あと少し値段を下げれば売れたものを、思い入れが強すぎたために、せっかくのチャンスを逃して、後で,あの時に売っておけばよかったと後悔しないようにという言葉です。株式投資でもよくある話だと思います。銘柄研究に熱心すぎて、売り目標値段を絶対に変えようとしなかったため、わずか1円の違いで利食いを逃し、逆に100円以上の損となることは珍しいケースではありません。自分の相場観などを持つことは決して悪いことではありませんが、こだわりすぎて現実の相場の動きを見失ってはいけないという格言です。

【風が吹けば桶屋が儲かる】
材料を自分たちの都合のいいように解釈して取引きを勧める株屋、証券会社をからかった言葉です。かつては、家の軒先や街の角に飲み水用や火消し用に水を入れておく桶があちこちにあり、それが台風などの強い風が吹くと壊れて桶屋が忙しくなったことから引用されています。しつこい証券会社の営業は困りものですが、個人投資家は、出来事をぼんやり眺めるのではなく、こうしたたくましい連想は大いに学びたいものです。

【天井も底値も大衆がつける】
残念なことですが、われわれ大衆は、自分ではいくら強い意志を持っているとはいっても社会の影響を受けやすいのです。景気において個人消費は、機械受注、半導体在庫等の先行指標に対し遅れて表れますから、個人消費が絶好調なら景気の天井が近く、個人消費不振なら景気のボトムが近いとみることができます。株式相場でも証券会社の店頭に個人投資家が増えるとピークになることが多く、反対に下げ相場で処分を我慢していた個人がたまらず投げ売りしたところが底となるケースが目立ちます。景気も相場も大衆の動きは遅行指標という格言です。

【上がる株が優良株】
一般的には、優良株と呼ぶ場合は、収益力が高く、配当も立派な企業を指します。しかし、内容がいいからといって、いつも値上がりするわけではありません。たしかに、内容のいい銘柄をじっくり持っていれば報われる確率が高いことは事実ですが、それは、どちらかといえば高度成長経済時代に当てはまったことであり、現在のように少ないパイを奪い合う競争の激しい時代においては優良企業といえど安心できません。「内容が良ければ必ず上がる」という思い込みの投資態度を戒めると同時に、「今の相場において」上がる銘柄こそいい銘柄である、という相場の流れ・変化を見極めた投資スタンスを大切にしなさいという格言。

【咲いた株から散って、散った株からまた咲く】
先に咲いた花から散っていくように、株もまた同じように先駆して買われた銘柄から天井をつけていきます。いくら綺麗な花でも永遠に咲き続けることはできません。いつかは必ずしおれていきます。株も優秀な内容でいくら人気があったとしても上がり続けることはできません。株式市場では先に買われた銘柄が高値を打つと、比較感から二番手、そして三番手銘柄などが順番に買われて天井をつけていきます。そして、次の相場では先に天井を打って整理していた銘柄から買われます。優良株といえど永遠に上がり続けることはできないし、いずれ内容が劣る銘柄でも見直されるという格言です。

【幽霊と仕手は正体の分からないのがいい】
枯れススキの揺れや柳の枝のざわめきに幽霊が出たかと怯えるのは今も昔も同じではないでしょうか。街灯が整備されたとはいえ、夜更けに公園を横切っての帰宅で風に舞い上がった新聞などに肝を冷やされるものです。しかし、正体が分かってしまえば怖さは半減です。突如、人気化した仕手株も誰れが買っているか分からないと、憶測が憶測を呼んでいっそう思惑人気が高まります。ところが仕手筋の正体がはっきりしてきますと、資金量などが予測されるようになって、次第に思惑人気が剥げていきます。情報公開の時代で、株式市場に幽霊は住みにくくなっていますが、人がいるかぎり思惑はつきもので、それが相場をおもしろくしているといえるでしょう。